ロジカルシンキングを実務に活かす

ビジネスにおいて、時間は誰にとっても貴重な経営資源です。とはいえ、拙速に結論を急ぎすぎると、期待する結果が得にくくなるだけでなく、後々の修正も難しくなります。成功も失敗も貴重な成果ですから、その事実がきちんとわかるようにしておけば、修正を反映して次はもっとうまくやれるはずです。行動を起こす前に巡らす考えの設計図が明瞭であれば、先の見通しが明るくなるだけでなく、不測の事態に機敏に対応できるキャパシティーが大きくなります。そこで、ビジネス・コミュニケーションの基本的な思考の組み立てについて、演繹法と帰納法の二つを取り上げてみます。

まず演繹法についてです。私たちが用いる日本語のもつ文法的な組み立ては、順を追ってストーリーが展開していき最後に結論がくるという流れが自然かと思います。このような文脈なら演繹的な伝え方といえます。伝えようとする考えに関連する出来事やそれに付随する気持ちを順を追って表現するので、体験的に時間軸に沿って話やすいと言えます。ところが、時として、一つずつ事柄を追いかけていくうちに、どうしても話が長くなりがちです。また、伝えようとする事から道筋が外れていってしまい、最初に伝えようとしていたことと違ったところに着地してしまうということもあります。このようにならないためには入念に考えをまとめておいて、文章に書き起こすなどしておくと良いと思います。

次に、論理的な組み立てのもう一つである帰納法は、主張や結論に関連する個々の事象やそのセグメントの傾向を読み取って、推論を立てて主張や考えを導き出そうとする考え方です。典型的な文脈として、まず考えや結論を述べ、それを支える根拠を列挙します。複数の根拠をもとに主張するので聞き手の納得感を得られやすいです。また忙しいビジネス環境では、言いたいことが先に述べられるので判断や結論が得やすくなり、会話のテンポが良くなります。無駄なくスピーディーにコミュニケーションが行われる反面、「あそび」が少なくなり過ぎるとドライでギスギスした会話になりかねません。冗談を挟んだりするセンスも大事だと思います。また、結論を支える根拠の取り上げ方にも注意が必要です。用いるデータや事実、状況などに推論が入ったり情報が偏向するとうそっぽくなり説得力が下がります。主張の証左とする事柄に信頼性と妥当性が求められます。

果たして、どちらが良いかは状況や話し手の「意図」によるのですが、主張を組み立てるピースで重要なのは一つ一つのどんな事実を取り上げているかです。主張や結論を構成する基になる「事実」に推論が潜り込まないように留意し、起きている現象の本質的な原因は何か?(Why?)という問いかけを重ねていけば、仮説をもとに、それでどうした(So What?)の突っ込みで掘り下げていくと何を、どう、なんでかというと、が見えてきます。問いかけを重ねるプロセスから、その先にある解決策は見えてくる、と言えます。良い質問が良い結論を導き出すとも言えます。日常の「なぜ」を大切にすることで「ロジカルな」視点が養われると思います。

ー 啓蟄 ー