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キャリア開発における組織と従業員の立ち位置は?

キャリア・カウンセラー(GCDF)の資格を取得してから数年後となる2008年の春、会社勤めから個人事業主として働くスタイルになりました。その後10余年を経て国家資格となったキャリアコンサルタントへ移行しました。自分自身の事にとどまらず、社会で起こっている変化を肌で感じ、人事関連の問題として、働く人自身の仕事に関する認識のあり方と組織の役割が大きく変化してきたと実感しています。
日本では年功序列と職能制度が基盤となって、生活とキャリアの全責任を企業が負う時代が続いてきたわけです。唐突ですけれど、転職雑誌が出している電車の中吊り広告で、お笑いタレントを用いて「上を目指すことがかっこ悪いですか?」という投げかけをしているキャッチコピーを見ました。そうかぁ、ずっと以前なら、所得、権限、地位、生涯にわたる保障などが段階的に上がっていくことが約束されていると暗黙の約束だったんだと思ったのです。今に至ってその時代とは不確実性が比較にならないほど増してきて、将来予測がたちにくい状況が常態といってもよいなかに私たちはいます。
職場では、自分自身で仕事の状況に適応する能力を高め、継続的に知識やスキルを身につけ、自分のアイデンティティーを自分自身で保っていくような状況ではないでしょうか。自身のキャリアをどのようにプランして、最新のスキル、能力、知識を身につけ将来に向けた準備をしていくかは、ますます働く人自身で行う責任の度合いが増してきています。いわゆるプロフェッショナルとしていつでもチャンスがあれば打って出られるだけのバリューがあってこそ、企業にとっても重要な人材と言えるわけです。そのような人材にはキャリアの選択肢が広がるでしょうし、職業や職務の選択に関する重要な価値観こそがキャリアの志向性を形成していくと言えるでしょう。
そんなプロフェッショナル人材として自分自身のキャリア形成に責任を持っていく必要があるという考え方に、参考となるポイントがあります。
1.己を知る(強み、開発ニーズ、仕事スタイル、興味のある分野)
2.仕事スタイルが周囲にどう受けとめられているか認識をもつ
3.人的ネットワークを築くための取り組みを継続し、自身の幅を広げ続ける
4.最新のテクノロジーを身につける
5.過去にどのような成果を、どうやって上げたかについて把握しておく
6.専門的な職務分野と汎用的なマネジメント能力のバランスを見極めてキャリアパスを選択する
7.自分自身の労働市場におけるバリュー(市場性)をチェックし、不測の事態にバックアッププランを用意する

一方で、企業は有能な人材をどうやって見いだしていくか。そして仕事でチャレンジできる機会提供を行い育成し、スキルや知識を習得させながら人材のバリューをあげる支援をどう行っていくか。時間のかかる人材の育成に取り組みつつ、育てた大事な人材をどう留保しながら事業の継続と発展に関わっていってもらうか。有能な人材ほど企業に貢献してくれる期待は高いと思うのですが、市場性が高いので他社にとっても喉から手が出るほど欲しい人材であるのは言うまでもありません。流動的な労働市場は相変わらず売り手側に有利な状況で、企業と従業員の関係がよりフラットになってきたと考えてもいいと思います。
だからこそ、肯定的な関係を結び、継続的に働く意義を見いだしていくにはオープンで公正かつ公平なキャリア形成支援が重要になってくるでしょう。そのようなキャリア支援に関する考え方に以下のポイントがあります。
1.組織の目標や中・長期の事業戦略に関するプランを明確に伝える
2.従業員自身のキャリア志向に沿った職務分野で成長の機会を提供する
3.職務に必要なスキルや知識、技術などの習得に関して経済的なサポートを行う
4.仕事を通じて、考えたり、試行錯誤できるだけの余白(時間や失敗から学ぶ機会)を提供する

「会社」は目に見えるわけではなく、働く人自身の思いもホントのところが時折垣間見えるくらいなものでしょう。だからこそ、経営の中核を担う立場にある方々はオープンにその企業に働く人との関係を築いていくことが成功の道のように思います。組織と個人の関係を相互理解に立って、まだ見えていない可能性を顕在化するために仕事に取り組めるとしたら、それはきっといい職場だと思えるのではないでしょうか。

ー雨水ー

組織風土と人材の相性をどうみるか

社会的な背景によって希求する事も異なる、としたら
マズローの欲求五段階論は古典的な動機理論のなかでよく知られるものの一つだと思います。
ご存じかと思いますが、かいつまんで言うと、生理的、安全的、社会的、自尊的、自己達成の5つを段階的にレベル分けして、段階の順を追ってより高次元のことに至っていくという枠組みです。
この説を画一的ではないと考えた方が「多様性」を踏まえた認識としてはよいのではないかと、組織行動論では高名なS.ロビンスが示唆に富む説を述べています。社会の多様性すなわち文化的な背景の相違があれば、必ずしもこの段階通りではないと。彼に拠れば、この理論が構成されたのは米国においてであり、我々も抱く米国の紋切り型スタイルである「個人主義」と「男性型(成果達成指向に偏向と解釈)」によって左様な構成が組み立てられた、または米国の当時の特徴を反映しているということを述べています。
さらに、社会的な相違は国ごとの文化的背景の多様性と捉えて、日本やギリシャ、メキシコは不確実性回避の特徴が強いため、安全性(物理的、精神的な障害からの保護と安全)の欲求がより高次に位置づけられるかもしれないとしています。また北欧の国々では女性型の特徴(愛情、帰属意識、受容、友情などへの希求)が高く、社会的欲求のほうが高くなっているとも。
もう少し対象を絞ってみて、このことを組織の風土と個人を結びつけるときの「相性」と捉えてみるとどうでしょうか。自社の企業風土を思い描いてみて、この5つの動機要因がどれほどのインパクトで全体を構成しているかといった視点で眺めてみるとどうなるでしょう。組織の目指すところと、個人の求めるところが合致しているかどうかという点は人材の定着やパフォーマンスの向上といった組織開発の糸口になるはずです。

人が集まって形成する組織がつくり出す空気感
組織風土の捉え方は様々なアプローチがあるわけですが、そのうちの一つとして、働く人々全体の行動特性を分析調査し、その結果からどのような傾向があるかを俯瞰することができます。自然な仕事スタイルはその人の内発的な欲求や意図を反映して言動として顕在化すると捉えられます。ちょうど意識せずに利き腕を使っているような状態ですね。そこに組織上の役割責任が加わり、やりたいことや、やらなきゃいけないこととが渾然一体として「人材」のなかにまどろんでいると言えるでしょう。仕事してちょっぴり無理をしている状態を、適応行動をとっている、と言えますね。
それぞれの人で行動特性の傾向が異なると、なにが嬉しいとかやる気が出るといった要因も違ってきます。前述した、「男性型」=成果達成、自己実現と「女性型」=受容、帰属意識の二元的な対比では組織における多様性の一局面であり良いも悪いもないわけですが、意外と言うか当然のことと言ったら良いか、この空気感すなわち企業風土の特徴と個々人の行動傾向の結びつきの程度を、相性といっても良いのかもしれません。人の集団が形成する傾向を組織風土と捉え、そこに近ければ馴染みやすいでしょう。職場の居心地が良いと感じられればその会社に対して帰属意識も持ちやすくなるわけです。ただ、ここで留意するべきは、相性だけで企業と人材のフィット感をみてしまうと、現状の判断基準が限定的になり、人材の可能性を見誤りかねない恐れがあるという点です。

人と組織の可能性を可視化できるか
現状の事業戦略を肯定的なものと前提づける限り、同質化と効率化のプロセスは成果を生み出すだろうけれど、内外の環境変化がクラップアンドビルドを強要し、その風雨に晒されながら前例のない競争のルールを突きつけられる可能性はどこにでもあります。変化のスピードが高まる今日では、事業の継続性と変革は、捉えようのない暗黙知ともいえる企業風土の変革への挑戦となりかねません。自動化技術が高度化しても、仕事をやるのはまだまだ「人」です。だからこそ、組織とその中にいる人財(Human Capital)の現状を見えるようにして、先々の見通しを立てたり働く人々と組織の結びつきを高める働きかけの施策が有意義な取り組みであるのは言うまでもないでしょう。仮説を立てて将来像を描き、キャリア形成と事業の発展・継続の結びつきを見えるようにできれば、社員は希望をもって仕事に取り組めるでしょうし、戦略の実現可能性はより高まります。
会社組織が実現しようとすることと、個人が希求することが結びつく程度が強ければ強いほど、企業の地力はそのままそこに実現されていると思います。そのために組織と人材がエンゲージメントを形成する機会を提供していくことは、とても重要度が高い、そう思うのです。その第1ステップが人材採用におけるジョブフィットから始まると言えるでしょう。