経営やマネジメントに関わることは、正解のない課題に取り組み、仮説を打ち立てながら判断と決断を適時に行うことが求められます。このような予測不能とも思える状況に素早く適応しながら経験したことを通じて学びを得ていく能力、さらにいえば資質に近い能力は人材のポテンシャルを推し量る上で最も重要な要因と言えます。業界用語的な表現ですと、経験や体験を通じて即座にそこから学び取る力をラーニング・アジリティーと呼びます。不確実性が高くかつ多様性の拡がりが進む現在にあって、将来を担うコア人材を見定めるキーとなります。
キャリア形成に於いて、職務を通じて明確な成果をだし、そのプロセスがどのようであったかを振り返ることが有効です。ラーニング・アジリティーとはいわば経験した出来事や状況から、その因果律や仕組みといったものを知恵として速やかに構成することができるような能力と言えます。これが後天的に学ぶことができる能力であればこの領域を伸ばしていく余地はありますが、資質に近いものであって、その人が『機敏な学習」能力を有している人材であれば、将来のコア人材となる可能性が高いとされています。タレントマネジメントにおいてこの人材群を、キーリテンション人材とかPivotal Talentという呼び方で位置づけられます。
ところで、資質は顕在能力として発揮されて初めて価値があるわけですから、個人の能力とキャリア開発と企業の中・長期的な展望とを関連付けて進めて行く必要があります。キャリア・ラダーのある段階を過ぎてからは、全体の均一な研修などよりも、OJTとかアクションラーニングという括りで提供される能力開発の機会がより効果的でしょう。一般的には早期にキャリアプランを明確にして、有望な人材とのエンゲージメントを強める方が望ましいのではないでしょうか。具体的な時期は育成方針やキャリアプランのポリシーによるわけですが、新卒であれば入社3年目から4年目あたりに将来を展望するキャリア開発イベントを設けるケースがあります。そうすることで将来有望な人材の留保(退職リスクを下げる)につなげられます。さらに一対一のコーチングならば、コーチは職務遂行を続けるコーチィーと緊密に連携しながら行動変容と成果行動の発揮に向けた支援を継続していけます。目標とする指標に向かって実際にどう推移しているか、個人的なフィードバックは学びを確信に昇華する機会です。社内メンターや外部コーチという位置づけにある人から指南を受け、学んだことの実践に有効なきっかけを適時かつ適正に獲得しうるでしょう。機敏に学ぶ機会を増やし、ラーニング・アジリティーを仕事能力として顕在化するべく鍛えていくわけですね。
新卒だけでなく、即戦力を期待される中途社員であっても育成やパフォーマンスを高めるための中軸となっているのは、職務の遂行です。採用の入り口が違っていても、人材の資質としてラーニング・アジリティーが高い人材は稀少かつハイポテンシャルとみてよいでしょう。
先ず適所(フィット率の高い職務)への任用が第1ですが、これにコーチングのように人から学ぶこと、そして職務遂行に求められるスキルや知識を習得する機会を提供(人材への投資)を計画して、そこからのリターンをKPIで見える化しておくことです。キャリア志向がより明確な中途採用社員ならば、自分を活かそうとしてくれる機会と支援を好ましく受けとめる可能性が高いです。よく知られる学びの黄金律として、職務:70%、人からの指南:20%、Off-JTのような機会:10%という比率が最適であるとも言われます。
ホリスティック(総体的)な視座から人材をみていくと、個々人のキャリア志向が仕事への取り組み動機や成果達成に影響があると見えてきます。その人が有している能力や潜在的な可能性を引き出し、職務に結びつけ、やる気をもって取り組むようになるには、どのようなことが『動機」になるかも組織とそこに働く人の双方で了解できているかどうかを考えておくのも重要だと思います。
ー小満ー
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成果をだす能力について
仕事で発揮する能力のうち、顕在化しているものとそうでないものに区分できます。自社のなかに優秀な人材と言われる群があって、その人材に共通してみられる行動があるとすれば、成果をだす能力として傾向を見いだし得ます。
自社の状況に相応しい行動をとれる、これはコンピテンシーと同じ意味合いですね。これらの事例を多く集め、汎用的に用いられる成果行動に分類していくと、体系的に構成したコンピテンシーの一揃えとして整理できます。多少の差異があったとしても、概ね同様の用語やその定義づけしたものが評価の尺度となって、人材採用や社内の異動、昇進昇格、さらには将来の幹部候補者を育成していく人事施策へ展開できるのです。とは言え、企業を取り巻く内外の環境は変化しますから、これらの成果行動の項目を優先順位の高いものに並べ替えたり、定義している内容自体を変えたりすることも時には必要になります。
一般的な例として、マネジメント層に求められるコンピテンシーをいくつか以下に挙げてみます。
(1)リーダーシップ
(2)対人関係
(3)コミュニケーション
(4)戦略的思考
(5)業務遂行管理
(6)モチベーション
(7)セルフマネジメント
これらの成果行動について、実際にどのような行動やスタイルを含んでいるかを記述して見える化できていれば、期待されていることがどのようなことなのかが誰がみてもわかり易くなります。たとえて言えば、家のような構造物を組み立てるときに用いる「物差し」がセンチなのか鯨尺なのかそれともインチなのか、一貫していることと、長さや大きさについて定量化できるからちゃんとしたものが築かれるのと似ています。
ところで、職種によって求められる能力要件や仕事スタイルは異なりますから、上手く仕事で成果を出す上で働く人自身が、果たしてその仕事が自分に向いているかどうかを理解しておくことは重要です。転職が特別なことではなくなった今日では、機会に恵まれていても自分自身の中に職業選択の基準、すなわち己を知る物差しを持っていてこそ力を速やかに発揮できる職務に就けるでしょうし、よく言われる発揮されていない能力という意味で、ポテンシャルを顕在能力として引き出しうると思います。どのような職業観や価値基準をもって仕事を選ぶか、企業を選ぶか、更に言えば自分の価値を活かすチャンスをどうやって掴み取るか、いっそのこと起業して自分自身の将来を創り出してみるという選択もありますね。
どこで、どんな仕事をやっていきながら、何をなそうとしているのか、個人も企業も同じように成長と変化を継続していくでしょうから、時折立ち止まって遠くを見通してみるのもいいと思います。そのとき手の中にキャリアと将来の生活に関する「地図」を持っておければ、荒野が広がっているように見えるフィールドの豊かさに気づくチャンスが増えるのではないでしょうか。
ー立夏ー