組織風土と人材の相性をどうみるか

社会的な背景によって希求する事も異なる、としたら
マズローの欲求五段階論は古典的な動機理論のなかでよく知られるものの一つだと思います。
ご存じかと思いますが、かいつまんで言うと、生理的、安全的、社会的、自尊的、自己達成の5つを段階的にレベル分けして、段階の順を追ってより高次元のことに至っていくという枠組みです。
この説を画一的ではないと考えた方が「多様性」を踏まえた認識としてはよいのではないかと、組織行動論では高名なS.ロビンスが示唆に富む説を述べています。社会の多様性すなわち文化的な背景の相違があれば、必ずしもこの段階通りではないと。彼に拠れば、この理論が構成されたのは米国においてであり、我々も抱く米国の紋切り型スタイルである「個人主義」と「男性型(成果達成指向に偏向と解釈)」によって左様な構成が組み立てられた、または米国の当時の特徴を反映しているということを述べています。
さらに、社会的な相違は国ごとの文化的背景の多様性と捉えて、日本やギリシャ、メキシコは不確実性回避の特徴が強いため、安全性(物理的、精神的な障害からの保護と安全)の欲求がより高次に位置づけられるかもしれないとしています。また北欧の国々では女性型の特徴(愛情、帰属意識、受容、友情などへの希求)が高く、社会的欲求のほうが高くなっているとも。
もう少し対象を絞ってみて、このことを組織の風土と個人を結びつけるときの「相性」と捉えてみるとどうでしょうか。自社の企業風土を思い描いてみて、この5つの動機要因がどれほどのインパクトで全体を構成しているかといった視点で眺めてみるとどうなるでしょう。組織の目指すところと、個人の求めるところが合致しているかどうかという点は人材の定着やパフォーマンスの向上といった組織開発の糸口になるはずです。

人が集まって形成する組織がつくり出す空気感
組織風土の捉え方は様々なアプローチがあるわけですが、そのうちの一つとして、働く人々全体の行動特性を分析調査し、その結果からどのような傾向があるかを俯瞰することができます。自然な仕事スタイルはその人の内発的な欲求や意図を反映して言動として顕在化すると捉えられます。ちょうど意識せずに利き腕を使っているような状態ですね。そこに組織上の役割責任が加わり、やりたいことや、やらなきゃいけないこととが渾然一体として「人材」のなかにまどろんでいると言えるでしょう。仕事してちょっぴり無理をしている状態を、適応行動をとっている、と言えますね。
それぞれの人で行動特性の傾向が異なると、なにが嬉しいとかやる気が出るといった要因も違ってきます。前述した、「男性型」=成果達成、自己実現と「女性型」=受容、帰属意識の二元的な対比では組織における多様性の一局面であり良いも悪いもないわけですが、意外と言うか当然のことと言ったら良いか、この空気感すなわち企業風土の特徴と個々人の行動傾向の結びつきの程度を、相性といっても良いのかもしれません。人の集団が形成する傾向を組織風土と捉え、そこに近ければ馴染みやすいでしょう。職場の居心地が良いと感じられればその会社に対して帰属意識も持ちやすくなるわけです。ただ、ここで留意するべきは、相性だけで企業と人材のフィット感をみてしまうと、現状の判断基準が限定的になり、人材の可能性を見誤りかねない恐れがあるという点です。

人と組織の可能性を可視化できるか
現状の事業戦略を肯定的なものと前提づける限り、同質化と効率化のプロセスは成果を生み出すだろうけれど、内外の環境変化がクラップアンドビルドを強要し、その風雨に晒されながら前例のない競争のルールを突きつけられる可能性はどこにでもあります。変化のスピードが高まる今日では、事業の継続性と変革は、捉えようのない暗黙知ともいえる企業風土の変革への挑戦となりかねません。自動化技術が高度化しても、仕事をやるのはまだまだ「人」です。だからこそ、組織とその中にいる人財(Human Capital)の現状を見えるようにして、先々の見通しを立てたり働く人々と組織の結びつきを高める働きかけの施策が有意義な取り組みであるのは言うまでもないでしょう。仮説を立てて将来像を描き、キャリア形成と事業の発展・継続の結びつきを見えるようにできれば、社員は希望をもって仕事に取り組めるでしょうし、戦略の実現可能性はより高まります。
会社組織が実現しようとすることと、個人が希求することが結びつく程度が強ければ強いほど、企業の地力はそのままそこに実現されていると思います。そのために組織と人材がエンゲージメントを形成する機会を提供していくことは、とても重要度が高い、そう思うのです。その第1ステップが人材採用におけるジョブフィットから始まると言えるでしょう。