キャリア形成と人材の評定について

階層化した組織構造の場合、キャリア・ステップとはそのレイヤーを上っていく(時には下がる)イメージだろうと思います。ジェネラリストとしてキャリアを築いていくか、または専門性を高め(深掘りし)ユニークなバリューを有する人材としてポジションを築いていくか。現実は複雑でしょうけれど、単純化してキャリア・ステップを描いてみると、そのキャリアの段階に応じて典型的なロールモデルが見えてくると思います。
その際に、各キャリアのマイルストーンとなる分岐点で、どのようなキャリア指向を持つ人材が将来有望であるか判断できると、企業とそこで働くPivotal・Talent(重要な人財)たる人材の双方に有意義なキャリア・イベントとなるはずです。その人材のセグメント分けには、メルクマールを2軸に展開するとわかり易いと思います。業績評価の仕組みでよく用いられるフレームワークですけれど、第1の軸にKPIに基づく実績、第2の軸に成果行動とそれに関連する顕在能力とし、現在時点までの評価をもとに分類してみます。過去にできてたことは、同様の状況において再現性が高いと期待できます。ところが、先の状況が変化は激しく、これまでの経験では予測不能な場合はどうでしょうか。
仮説を立てて将来の事業展望を描くと共に、事業戦略の実現を担いうる人材育成と登用を行うために、ステークホルダーである上席者や企業の人事部門が主管し、現在時点までの人材の資源性をベースに、将来の中核人材となる候補者と、発展的キャリア形成についてインターアクションするキャリア・イベントを設けることは、双方にとって有意義だと思います。
そこで用いる情報として、経歴や職務上の実績などの事実データとと共に、人材アセスメントによる客観的な分析データがあれば、感覚的に捉えられている暗黙知を形式知で補うことができるでしょう。人が感覚的に(直観的に)捉えていることは、仮に言葉にならないとしても、複眼的な視座で人材を評定し、最終的な判断と意思決定は人が決めるわけです。アナログとデジタルはそれぞれの良さがあると思うのです。

ー 雨水 ー

ジョブ・キャリアが磨く自身の力を信じる

仕事に傾倒して行くにつれて、ある職務領域の経験と知識がその人に積み上げられていく。職業をどう選択するかは重要な事なのだが、悩みながらも選択してきた結果が今に至る。
いつだってかつての分岐点に戻ってやり直すことはできるのだが、その選択の決断によって開ける将来の可能と、これまでのこととして今後は手放さなくてはならないこともでてくる。とはいえ、積み上げてきたキャリアの財産は決して無駄にならない。実績や経験は目に見える事実としてキャリアを語るのには有効な証左となる。
さらに、そのような「こと」や「どうやって」、「なぜ」、「だれと」それらの事柄に取り組んできたのかを一般化して行くと、キャリアで形成されてきたその人自身の「メタ能力」が見えてくる。ことごとく経験に無駄はないのである。これらからは恒常的で汎用的な職業人の実力や目指す方向性、意欲や取り組み姿勢に影響する価値観が見いだせるし、言葉で表現できようかと思う。
組織で働くにしても、フリー・エージェントとして働くスタイルを選んだとしても、仕事は繋がりの中から生じ、相互の連携と協力で目指す結果に向かってかたち作られていくモノだと思う。自分が大事にしていることと、周囲との関わりの中で認めてもらえる事の結びつきから、働く力の実力を見いだしていける。
新しい事はいつだって始められるし、やり直して他の方向性へ向かっていける。その時に大事にしておきたいのは、何かをやりたいのかという自分自身の思いと率直に向き合うことかと思う。

ー 立春 ー

変化と成長の模索

会社という仕組みにあって、組織はどう組み立てられていると働く人々は居心地がよく、事業の継続性が維持されるのであろう。
階層化と機能分化が行われ統制するルールが遵守されている構成は、概ね大規模の企業に多いと思う。では、従業員が少人数で事業規模がまだ小さい(財務的な指数として)組織は、自由で柔軟な事業活動が行われているのか。単純に、規模の大小で対にしてみると組織の変化と成長が相関しているかに思う。一方でITインフラの整備と高機能化によって、個と組織の関わり方が変わってきている。『働き方』というより『暮らし方』が変わってきている。会社という仕組みを支える組織の在り方は、最適解を見いだしうるのだろうか。
経営者の最も重要な役割責任は意思決定であるが、状況に適応した最適な解を得るために、仮説と予測に基づく選択が連続する。ひと一人でやれることは自ずと限界があるが、どのような外部環境であったとしても、目的地が定まっていれば行動の意味はぶれない。見定めた方向へ、一緒に働くメンバーを応援したり、支えたり支えられたりしながら共にあるとしたらどうだろう。道は、志している思いの通りに目の前に拡がってくるのだと思う。

ー 大寒 ー

「自立的で自律的な働き方」をコンピテンシー的に考察

昨今ではコンピテンシー(Competency)という言葉も概念も今日的なキーワードから少し遠くなった気がします。けれど、仕事を通じて発揮するその人の「能力」が何かしらの結果(Outcome)をつくり出しているのは変わっていません。その結果というのは、目的や都合に合っていればよい事になって成果になるし、ズレる度合いが多くて違うよなぁ、と受け止められるなら失敗になるのだ。でも行動したことによって得られた結果(事実)は一つなのですから。

仕事に於ける評価というのは事ほど左様に、合目的的な基準によって仕訳している訳です。人ぞれぞれに得手不得手があって、そのやり方も当然様々である。結果に至るプロセスは、あたかも目的地に辿り着くルートが一本道ばかりでない事のように、右往左往、否、試行錯誤しながらルート(行動)を選択してきた結果のはずである。成果を生み出すために発揮される能力を、成果行動と呼ぶのだけれど、行動特性的な見方をすると、人ぞれぞれに強みと弱みを持っていて、結果を導く決め技もそれに応じて多様なのですね。

今更なのですが、私たちが働くビジネス環境はめまぐるしく変動していて、その状況に適応した判断と行動が求められるようなってきていると思います。アジリティー(俊敏さ)が個人単位でも、組織にとっても成功に繋がる成果を創り出す成功要因(KSF)の一つだといえると思います。この俊敏性(迅速に対処する)そのものも成果をだす能力と言えようかと思います。
そして、企業という組織化されたシステムの中では、任された仕事の役割と期待成果の結びつきを把握する全体観、さらには同時並行的に周囲と連携して進めていく仕事力が求められます。目の前にある「仕事」は、出来上がった手順に沿って効率性を高めながら進めていくようなものなのか、それとも成果の品質を妥協せずに求め続けるものなのか、もっと言えば制約された条件の中でその両方を実現しようとする事なのでしょうか。

ものつくりを行う企業を拝見させて頂いて、現場では自動化が進んでいることを実感しています。MCによる高精度加工や多様なパーツを自動組み付けする製造ラインが拡がる中で、単能工的な、出来上がった仕組みで進めれる仕事は代替が一層進むのだろうと推測しています。一方で、人が手をかけて創り出す領域は価値が高まっていくのだろうとも考えています。着想して工夫を実現する領域に仕事の面白さや可能が拡がっているとも言えるのではないかと思います。自立的かつ自律的な働き方、というテーマで考えを巡らせてみると、これは「プロフェッショナル」な人材という言葉が浮かんできて、しっくりするのです。一つの例として、そんなイメージの中にある人材像に結びつくいくつかの成果行動を選んでみます。(それぞれは上位から下位に至る定義に幅がありますが割愛します)

(1)達成重視
(2)イニシアティブ
(3)チームリーダーシップ
(4)顧客重視
(5)概念化思考
(6)セルフコントロール
(7)柔軟性
(8)専門能力
(9)組織へのコミットメント

成果を生み出す行動は、体系化された行動特性をもとに、仕事のスタイルを特徴づける傾向をひな形として見える化できます。言語化でき、意図する期待人材の有り様をモデルとして構成できるので、形式知としてのドキュメントが共有ができて、相互のコンセンサスを得やすくなるはずです。自社の「共通言語」として、事業の発展と継続に応じて仕事力を説明できるフレームワークがつくられるとしたら、「人財」マネジメントを実践するのに効果的だと考えているのですが、御社ではどのようにされているでしょうか。

ー白露ー

仕事とプライベート


 梅雨明け直後から猛暑といえる体温を超えるような気候です。夏休みを分散してとるやり方が広まってきているようですが、お盆に帰省される方がまだまだ多いです。かく言う私も墓参のために故郷へ向かう予定です。40kmを超える高速道路の渋滞予測を見るにつけ、何を好き好んでそんなところへ向かうのか、習慣とか風習というのは生活に根深く影響しているのだなと思います。

 働き方を変えていこう、そういったかけ声が叫ばれるようになってきました。仕組みや制度を変えれば、やり方が変わるので一見すれば働く環境や時間の割り振りは事情に合ったようになるのだと思います。さらに個人的な範囲であったとしても、働き方と暮らし方を変えていこうとするならば、どんな自分でいるのか、という根っこのところに目を向けてみることで仕事とプライベートのバランスを見直しする糸口を見つけられるように思います。

 2012年に発刊された「ノマドライフ」の著者である本田直之氏がまえがきのむすびで、老子の言葉を引用されています。

「生きることの達人は、仕事と遊び、労働と余暇、心と体、教育と娯楽、愛と宗教の区別をつけない。何をやるにしろ、その道で卓越していることを目指す。仕事か遊びかは周りが決めてくれる。当人にとっては、常に仕事であり遊びでもあるのだ。」

 外はうだるような暑さではあります。そんな盛夏のひととき、冷えた飲み物を傍らにこれまでとこれからを眺めてみるのもいいな、と思う言葉でした。

ー立秋ー

同じ仕事をしているから同じ賃金なのだ、ということ

働き方改革で、同一労働同一賃金が取り上げられています。
大雑把に言って、この主旨は、正規社員と非正規社員の処遇格差について、合理的な理由(根拠)を求めるということかと思います。雇用の形態に応じた格差に合理的な根拠を設けて、多様化する働き方に公正な処遇を設けるよう制度のポリシーと仕組みを変えていくことになります。まずは関連する法令から一続きになっている規定、規則の改定は必要になりますね。
人事制度の改定を進めるにあたって、実態に規則を合わせるようなことになると、自社の「働き方改革」のありがたが後付けになりそうです。できることなら、時代の流れとして今起こっている多様化を先取りして、年齢や国籍そして性別に関する個人的な属性を取り払って事業運営をになってもらう人財の処遇について、担っていただく職務を基盤として考えてみるのはどうでしょうか。
日本の雇用慣習としてとられてきた終身雇用と年功序列が、いよいよ方向転換をするのだろうと思います。長く務めてもらっていれば、有形、無形の財産が人についてまわります。人に内在する貴重な経験と知見という鉱脈をみすみす投げ打つようなことはあってはなりません。どのような能力を発揮してもらい、自社にとって有意義な価値を作り出してもらえるか。組織戦略は事業戦略を反映し、それぞれの仕事=職務は責任と期待成果、そしてそこに求められる能力(成果行動)に区分して定義できます。労務費をコストとみるのか、将来に向けた企業と働く人への投資とみるのか、おなじお金でも意味合いは違ってきます。現時点から将来に向けた可能性を現実とするために、担ってもらう責任と成果のサイズに、報酬が合理的な根拠に基づいて定められていることが要諦かと思います。
公正なポリシーにより、オープンな情報共有が行われ、公平な処遇をどのように制度化するかは、事業の継続性を担う働き手の納得とモチベーションに直結するのではないだろうか、と思います。

ー大暑ー

荷物の軽量化

 仕事柄、書類とPCなどの機材諸々を持ち歩く事が多いです。最近ではお客様のミーティングルームに大型のディスプレイやプロジェクタが設置されているのが珍しい事でなくなってきて、大きな荷物が一つ減るので助かっています。時には、長期のプロジェクトになると関連書類が増えて、バインダの厚みが5センチくらいになる場合があります。そんなときは全部持ってあるかなくてよいように、できるだけスキャンしてEvernoteやクラウドのストレージへ保管しておくようにしています。紙の情報をデジタル化してまとめたり軽量化する手段は増えてきたのは本当に助かっています。お客様に資料を送る場合にも、PDFファイルを用いる事も普通になってきました。

 もっぱら自宅の仕事部屋ではMacに外部ディスプレイを繋いでいます。広い作業スペースがあると関連する「資料」をざっと並べて仕事ができるので効率が良いです。そうやって準備したデータや印刷した資料を外に持ち歩くときに、TUMIのブリーフケースが長年の相棒なのです。頑丈な作りでキャパが大きいバッグに目一杯機材と資料を詰め込むと10キロを超える事もあって、大玉のスイカを背負っている感覚になってきます。パッキングでは、肩掛けにしてみたり、コロコロ型のバッグを使ったり、バックパック型でやってみたりと時と場合でバッグの種類も増えてしまいました。
それでも、形を変えても重さは変わらないのでデジタル化と機材の小型化と軽量化で負担を減じるようにしてきました。

 先様の状況にどのようにでも応じられるようにするには「基本の装備」をいつもどおりの構成で固めておくのは心理的にも安心だからなのです。さらなる身軽さを実現するには、いよいよと最後の大物はパソコン本体とACアダプタの総重量になってきました。ACアダプタはFINSIXという小型で65W対応ながら本体が85グラムの汎用ACアダプタを好んで使っています。このあたりはチリツモなのですが。常用しているMacBookPro13インチもレノボのX1カーボンも数世代前のモデルですが、私の仕事内容なら全く問題ない性能です。ただ、最近の機器と比較して、性能と重量のバランスでみてかなわない。各社のモバイルPCを眺めると、1キロを大きく下回るのにCore i7が載っていてストレージはSSDが当たり前です。現在の機材がまだまだ使えるので悩ましいところですが、身体の負担と気持ちのことも考えると、手持ちで持ち歩いて使う事に特化したパソコンにそろそろ入れ換える時期のようです。目標は持ち出し機材の構成を見直しながら、減量目標を全体で1キロに近くなるようできるだけ軽量化する、という方針で検討する事にしました。さてさて、どうなることやら・・・。

ー小暑ー

人材を活かすということ

売り手市場の中で、働き手の不足が事業の継続を危うくしかねないという笑えない現実がある。その一方で一括採用した新卒者は三年目に3割から4割が離職しているという統計が出ている。やめる側にしてみれば、合わない仕事に執着しても、うまくいく可能性は高くないと思うのは自然な帰結か。だが転職にはリスクが伴う。採用した企業にしてみれば、先行投資を含め多大なロスを被る。果たして、お互いに利のないこんな実情はあって当たり前の事なのだろうか?

働き手に期待されるのはプロフェッショナルとして、投資に見合うリターンを提供できる仕事力だろう。人材採用をする企業としては、役割責任と期待成果を明示し、それを実現できるかどうかを見定めて人材を採用し任用するわけである。ところが、年功序列と職能という人に仕事がついてくる考えに慣れ親しんだ「空気」の中で、仕事はそれに相応しい能力と周囲の理解を前提として人材を任用しうるだろうか。以前から抜擢人事はあるわけだが、いわば特例的な扱いだろう。だが、それではもう会社が成立しない。仕事ができる人にその責任を担ってもらう、その前提をはっきりと約束事にできるかどうかがこれからの企業存続の分かれ目のように思う。

一定の期間で働く雇用契約で事業継続をしていくと日本では想定していないと思う。現状でも期間の定めない雇用契約が正社員である。だが、ゼロベースで仕事を創っていける人にとって仕事があるからその企業で働く意義を見出す、という考え方を持っていることも少なからずある。やりたい事を実現できるのであれば、規模や場所には拘らない。働き方のスタイルにも多様性が拡がっている中で、一つの器に縛り付けようとすること自体に無理があるのではないだろうか。

仕事をしてもらうために人を雇うのだが、採用を進めるプロセスで人材と企業の双方でこの点がどれくらい明確になっているかどうかが、入ってからの本番で肝心なはずなのだが実情はどうなのだろう。

ー夏至ー

職務をどう定めるか

 やりがいのある仕事に就ければ、その人にとってモチベーションにつながる要因となります。であるがゆえに、仕事の内容を構成する職務特性を明示しておくことは重要なのです。職務はさまざまな個別の業務の集合体のようなもので、それらによって構成されると言えます。職務の構成要因に関する理論の一つとして、これを取り上げたJ.R.ハックマンの研究によれば以下の5つの中核的職務特性を用いて説明できるとされます。

(1)技能多様性:どの程度多様なスキルや才能を活用できるかといった程度
(2)タスク完結性:仕事全体や部分であっても、それを完結させることを求められる程度
(3)タスク重要性:職務が他に与える影響度をいっていて、インパクトという表現もある
(4)自律性:自由度、独立性、裁量範囲などがどの程度与えられているか
(5)フィードバック:仕事の結果が、その仕事を担う個人にフィードバックされる度合い

 さらに、職務が与える潜在的な動機づけ要因をスコアにできます。前述の各因子を関連付けて数式化したものがと以下となります。

((1)+(2)+(3))÷ 3 × (4) × (5)

 職務要件定義書では、職務に必要な能力や経験、知識、そして成果責任と権限といった3つの要素について記述するテンプレートが多かったのですが、これは概ね先ほどの(1)から(4)と関連しているように思います。職務の多様性を段階的にみていって、職務の内容が限定的であって定型的なところはから始まって、徐々に職務の範囲が広がって多岐にわたり、結果のもつ影響度が大きくなるにつれて各因子の度合い(スコア)が大きくなっていくと考えられます。

 興味深いのは、仕事の成果に関してそれが個人にフィードバックされる度合いが潜在的な動機づけに影響しているところです。自律性は責任と権限の両面を含む内容を併せ持つでしょう。さらに、その人が自由裁量で取り組める程度が高くなれば、結果に対して個人的な責任を実感する程度も増していくという考え方に同意します。組織形態が目的に対して流動性をもって取り組む自律性を求めるほどに、戦略的な役割と成果責任がはっきりしていて、状況に俊敏な対処をとれるだけの裁量権があるとしたら、その仕事は自分の腕で創っていく自分自身の事になっていきます。

 そして大事なことは、自律的かつ合目的的な動きを促進するうえで、結果のフィードバックを受ける程度が高いほど、達成感や満足感と言った内的報酬を受け取ることの度合いを大きくなると思われることです。チームというユニットであれば、仕事を進めていく過程での共有とコンセンサスの程度が、共通の成果から得る共感しうる内的報酬も高まるだろうと想像できます。まるでスポーツでチームが勝利したときの喜びや感動と同じと言ってよいでしょう。

 これからの働き方改革で進められるであろう職務のデザインと組織戦略を進めていくうえで、仕事と人の関わり方、そして適所へ適材を任用し、その人に「やりがい」を持ってもらえるような仕事の定め方の参考になるのではないでしょうか。

ー芒種ー

ビジネスリーダーの資質と人材の育成

 経営やマネジメントに関わることは、正解のない課題に取り組み、仮説を打ち立てながら判断と決断を適時に行うことが求められます。このような予測不能とも思える状況に素早く適応しながら経験したことを通じて学びを得ていく能力、さらにいえば資質に近い能力は人材のポテンシャルを推し量る上で最も重要な要因と言えます。業界用語的な表現ですと、経験や体験を通じて即座にそこから学び取る力をラーニング・アジリティーと呼びます。不確実性が高くかつ多様性の拡がりが進む現在にあって、将来を担うコア人材を見定めるキーとなります。
 キャリア形成に於いて、職務を通じて明確な成果をだし、そのプロセスがどのようであったかを振り返ることが有効です。ラーニング・アジリティーとはいわば経験した出来事や状況から、その因果律や仕組みといったものを知恵として速やかに構成することができるような能力と言えます。これが後天的に学ぶことができる能力であればこの領域を伸ばしていく余地はありますが、資質に近いものであって、その人が『機敏な学習」能力を有している人材であれば、将来のコア人材となる可能性が高いとされています。タレントマネジメントにおいてこの人材群を、キーリテンション人材とかPivotal Talentという呼び方で位置づけられます。
 ところで、資質は顕在能力として発揮されて初めて価値があるわけですから、個人の能力とキャリア開発と企業の中・長期的な展望とを関連付けて進めて行く必要があります。キャリア・ラダーのある段階を過ぎてからは、全体の均一な研修などよりも、OJTとかアクションラーニングという括りで提供される能力開発の機会がより効果的でしょう。一般的には早期にキャリアプランを明確にして、有望な人材とのエンゲージメントを強める方が望ましいのではないでしょうか。具体的な時期は育成方針やキャリアプランのポリシーによるわけですが、新卒であれば入社3年目から4年目あたりに将来を展望するキャリア開発イベントを設けるケースがあります。そうすることで将来有望な人材の留保(退職リスクを下げる)につなげられます。さらに一対一のコーチングならば、コーチは職務遂行を続けるコーチィーと緊密に連携しながら行動変容と成果行動の発揮に向けた支援を継続していけます。目標とする指標に向かって実際にどう推移しているか、個人的なフィードバックは学びを確信に昇華する機会です。社内メンターや外部コーチという位置づけにある人から指南を受け、学んだことの実践に有効なきっかけを適時かつ適正に獲得しうるでしょう。機敏に学ぶ機会を増やし、ラーニング・アジリティーを仕事能力として顕在化するべく鍛えていくわけですね。

 新卒だけでなく、即戦力を期待される中途社員であっても育成やパフォーマンスを高めるための中軸となっているのは、職務の遂行です。採用の入り口が違っていても、人材の資質としてラーニング・アジリティーが高い人材は稀少かつハイポテンシャルとみてよいでしょう。
先ず適所(フィット率の高い職務)への任用が第1ですが、これにコーチングのように人から学ぶこと、そして職務遂行に求められるスキルや知識を習得する機会を提供(人材への投資)を計画して、そこからのリターンをKPIで見える化しておくことです。キャリア志向がより明確な中途採用社員ならば、自分を活かそうとしてくれる機会と支援を好ましく受けとめる可能性が高いです。よく知られる学びの黄金律として、職務:70%、人からの指南:20%、Off-JTのような機会:10%という比率が最適であるとも言われます。
 ホリスティック(総体的)な視座から人材をみていくと、個々人のキャリア志向が仕事への取り組み動機や成果達成に影響があると見えてきます。その人が有している能力や潜在的な可能性を引き出し、職務に結びつけ、やる気をもって取り組むようになるには、どのようなことが『動機」になるかも組織とそこに働く人の双方で了解できているかどうかを考えておくのも重要だと思います。

ー小満ー